META NAME="ROBOTS" CONTENT="NOINDEX,NOFOLLOW,NOARCHIVE" 脱「テレビ」宣言・大衆演劇への誘い 2024年03月24日
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2024-03-24

付録・邦画傑作選・「東京の英雄」(監督・清水宏・1935年)

 冒頭のタイトルに続き、「配役」になると、女性の歌声が流れ出す。耳を澄ませると、「並ぶ小窓に はすかいに 交わす声々日が落ちる 旅暮れて行く空の鳥 母の情けをしみじみと」と聞こえるが、定かではない。主なる登場人物は、根本嘉一・岩田祐吉、春子・吉川満子、寛一・藤井貢、加代子・桑野通子、秀雄・三井秀夫(後の三井弘次)である。さらに、寛一の少年時代を突貫小僧、加代子を市村美津子、秀雄を横山準(爆弾小僧)が演じている。
 冒頭場面は東京郊外、省線電車が見える空き地には大きな土管、その上に腰かけた数人の子どもたちが電車に手を振っている。そこに一人の少年・寛一(突貫小僧)が、バットとグローブを携えてやって来た。「野球しないか」と呼びかけるが「もうお父さんが帰る時分だからいやだよ」と断られた。寛一はすごすごと家に戻るが、待っていたのは婆や(高松栄子)だけ、「家のお父さんはどうして毎晩帰りが遅いの」と訊ねると「お偉くなられたからいろいろとお仕事がおありなさるのですよ」という答、やむなく一人で夕食を摂る。なるほど父・根本嘉一(岩田祐吉)は立派な家を構えている。しかし、寛一の母はどこにも見当たらない。父子家庭に違いない。嘉一の仕事は山師、「龍現山金鉱発掘資金募集事務所」という看板を掲げ、「天下の宝庫開かる!配当有利、絶対確実」というポスターで資金を集めているが、思うような成果が得られないようだ。
 嘉一が帰宅すると婆やが言う。「旦那様のお帰りが毎日遅いので、坊ちゃまが淋しそうでございます」「後添えを考えているのだが・・・」。かくて、嘉一は「求妻」の新聞広告を出し、再婚する運びとなった。相手の春子(吉川満子)には二人の子どもが居る。加代子(市村美津子)と秀雄(横山準)である。寛一と父は「じゃあ、お母さんばかりじゃなく、妹も弟も貰うんだね」「仲良くしなければダメだぞ」「生意気だったらノシちゃうよ」などと対話する。
 やがて、新しい家族は江の島を観光、嘉一、春子、加代子が連れだって「あなたが来て下さったのでこれからは事業に専念できます」と言いながら桟橋を歩いていると、後ろから秀雄が泣きながら追いついた。振り返ると、寛一が向こうで仁王立ちになっている。嘉一が駆け寄ると「今日から兄弟だっていうのに彼奴、僕のこと寛一さんだーか君だなんて言うんだもの(殴ってやった)あいつ、水臭いんだよ」。嘉一は寛一を黙ってみんなのもとに連れて行く。ともかくも、家族が揃い、明るい家庭がスタートする筈だったのに。
 数日後、「龍現山金鉱発掘資金募集事務所の内面暴露す 早くも首領株失踪」という見出しの新聞記事が載った。事務所に殺到する出資者たちの群衆が、自宅にまでも押し寄せる。嘉一は集めた出資金を持ち逃げ、姿をくらましたのである。春子は対応に追われるが追及者たちの前で「再婚早々で何もわかりません」と頭を下げる他はなかった。「でも、私は主人を信じております。大切な子どもを私なんかに預けてくださるんですもの」。婆やが「もし、このままお帰りにならなかったら」と問うと「子どもだけは立派に育てて見せますわ。日は浅くても親と子どもですもの」と言いながら、加代子と秀雄よりも、寛一の方に優しい眼差しを向ける。その場面は、この映画の眼目の伏線であることが、後になってわかるのだが・・・。まもなく、春子は、家屋・家財すべてを売り払い安アパートの二階に転居する。新聞の求人広告に目をやりながら、「女給では年を取り過ぎているし、女中ではコブ付きだし、事務員は履歴書がないし・・」と思案にくれていたが、高級クラブの仕事にありつけた。朝食を食べながら寛一が「お母さんのクラブってどんな所?」と訊ねると「社長さんたちが大勢集まって相談したり、お休みしたりする所よ」。すかさず加代子が「お母さんはどんな役?」と問いかける。しかし春子は答えることができなかった。子どもたち三人は蒲団の中で母を待つ。帰宅した母に、寛一は「ずいぶん遅いんだね」と案じると「お仕事が忙しいから」「じゃあ、偉くなったんだよ」と秀雄に話しかける。婆やの話を思い出していたのだろう。時には、子どもたち三人だけで泣き明かす夜も少なくなかった。
 そして十年が過ぎ、春子と子どもたち三人は、山の手の瀟洒な二階建ての家に住んで居た。まもなく、加代子(桑野通子)の嫁ぐ日がやって来る。家に訪れた呉服屋の前で、婚礼の晴れ着を選んでいる。大学生になった寛一(藤井貢)と秀雄(三井秀夫)が「いつのまに相手を見つけたんだい」「まだコロッケも作れないのに、早いんじゃないの」などと冷やかせば「秀ちゃんだって、いい人がいるんじゃないの」と言い返す。三人の景色は和気藹々、「子どもたちだけは立派に育てて見せますわ」という春子の決意は実現しつつあるのだ。そして婚礼の当日がやってきた。「こうやって見ると、加代子もなかなかいい花嫁さんですね」と寛一が春子に話しかける。顔を見合わせ頬笑む春子と秀雄。「お前たちが大学を卒業してくれれば、私は楽隠居だわ」と春子はほっとしたように見えたのだが。 そうは問屋が卸さなかった。一家は転がり落ちるように悲劇を演じ始める。その源は春子の生業にあった。女手ひとつで子どもたち三人を育てることは並大抵ではない。まして、二階建ての立派な家を構えることなど、堅気の商売では夢のような話である。しかし、その夢が実現しているとすれば、春子の稼業はまともではない。事実、彼女は子どもたちに内緒でチャブ屋を経営していたのだ。そのことが嫁ぎ先に知れ、加代子は追い返される。絶望した彼女は銀座の街娼に転落。秀雄もまた大学を捨て、与太者の仲間入り、今では顔役になっている。  
 しかし、寛一だけは、まともに大学を卒業、新聞記者の職を得た。スーツ姿の寛一を見て春子は涙ぐむ。これで責任を果たしたと思い、泣き崩れながら「許しておくれ、実は、私は・・・」と真実を打ち明けようとする。寛一は春子の口をふさぎ「お母さん、何も言ってはいけません。私はわかっています。お母さんはボクにとって日本一のお母さんです」と言い放った。血のつながらない息子だけが、母に寄り添い孝行する景色は、たまらなく美しく、私の涙は止まらなかった。寛一は加代子や秀雄を見つけ出し「家に帰るように」と説得、二人は家の前まで来たが、どうしても足が前に進まずに引き返していく。
 まもなく、悲劇の大詰めがやって来た。秀雄がヤクザ仲間に刺されたのである。事情を聞けば、雇われた会社の社長は根本嘉一、妻子を捨てて雲隠れした義父であったという。そんな会社はゴメンだと脱けようとして、「裏切り者」の制裁を受けたのだ。秀雄は「こんな姿はお母さんに見せたくない。黙っていてほしい」と言い残し、息を引き取る。寛一は、憤然として、嘉一の会社に乗り込んだ。「満蒙金鉱開発」を看板に、性懲りも無く、阿漕な経営をしている。父に向かって「一新聞記者として取材に来ました。あなたの会社はまともですか」「勿論」「では、なぜ不良連中を雇ったんです。弟の秀雄はそれで殺されたんですよ」驚く嘉一、次第に力が脱けうなだれていく。「お父さん、ボクはお母さんのために、秀雄のために、加代子のために、そして世間のために、自決を要求します」。 直ちに寛一は、新聞記者として、父の会社の不正を暴露する。その記事は「特ダネ」として表彰された。その報酬を持って家に帰ると、春子と加代子が泣いている。「お母さん、喜んでください。ボクは表彰されました」。しかし、春子は「私はそんなことをしてもらうために、大学を出したんじゃない。お父様に何と言ってお詫びをすればいいか・・」と泣き崩れた。寛一も泣いている「お詫びをしなければならないのはお父さんの方です。ボクは親の罪を世間に公表したんです。それで親孝行ができたんです」最後に「お父さんはお母さんに、くれぐれもよろしくと言っていましたよ」と言うと部屋を出た。
 寛一は自室に行き、机の上にあった父親の似顔絵を壁に貼る。それは十年前、彼が描き、秀雄に与えたもの、秀雄はそれを今まで大切に保管していたのであった。そして、窓を開け外を眺める。目にしたのは夕刊を配達する少年の姿、その姿に昔の秀雄、あるいは自分自身の姿を重ねていたかもしれない。寛一の心中には、あの冒頭の歌・・・「並ぶ小窓にはすかいに 交わす声々日が落ちる 旅暮れて行く空の鳥 母の情けをしみじみと」・・・が聞こえていたに違いない。その少年の姿が消え去ると、この映画は「終」となった。
 この映画の眼目は「生みの親より育ての親」という諺に象徴される、《絆》であることは間違いない。同時に、寛一にとっての「生みの親」(父)は罪深き詐欺師であり、加代子や秀雄にとっての「生みの親」(母)は世間に顔向けできない人非人なのである。寛一は父を許せない。加代子や秀雄は母を許せない。その悲しい人間模様が、実にきめ細やかな景色として、鮮やかに描き出されている。また、子ども時代、腕白でさぞかし親を手こずらせていたであろう寛一が、成人するにつれて人一倍、母を大切に思う姿も際立っていた。(突貫小僧から藤井貢へのバトンタッチという配役が見事である)それというのも春子が、三人の子どもに分け隔てない愛情を注いできたからに他ならない。吉川満子の表情一つ一つが、そのことを雄弁に物語る。三人の異母兄弟は、彼女の愛情によって固く結ばれていたのである。不幸にも秀雄は落命したが、残された寛一と加代子で春子を支え、さらに、改心した嘉一が、家族に加わる日も遠くはないだろうことを予感させる。清水宏監督、渾身の傑作であった、と私は思う。
(2017.6.2)



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