META NAME="ROBOTS" CONTENT="NOINDEX,NOFOLLOW,NOARCHIVE" 脱「テレビ」宣言・大衆演劇への誘い 2024年03月17日
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2024-03-17

付録・邦画傑作選・「隣の八重ちゃん」(監督・島津保次郎・1934年)

 ユーチューブで映画「隣の八重ちゃん」(監督・島津保次郎・1934年)を観た。(戦前の)ホーム・ドラマのはしりとでも言うべき佳品である。登場するのは、東京郊外(多摩川べり、あるいは江戸川べり)に隣同士で暮らしている二つの中流家庭、服部家と新井家の家族である。タイトルにある八重ちゃん(逢初夢子)は、服部家の次女、女学校に通い、父・昌作(岩田祐吉)、母・浜子(飯田蝶子)と暮らしている。隣の新井家には父・幾造(水島亮太郎)、母・松子(葛城文子)、長男・恵太郎(大日向伝)、次男・精二(磯野秋雄)が居る。恵太郎は帝大生、精二は(旧制)○○生、今日も家の前でキャッチボールをしている。精二は野球部のピッチャーとして、甲子園を目指しているので、兄の恵太郎が特訓をしている景色である。その時、ボールが逸れて服部家のガラスを割ってしまった。出てきたのは、八重子「また、割ったの」と言うところに、母の浜子が銭湯から帰ってきた。「どうも、すみません」と謝る恵太郎に「いいんですよ、男の子は元気が良くてうらやましい」などと責める様子もない。両家は家族ぐるみの交流をしているようだ。ガラス屋(阿部正二郎)が修理に来て終わると、浜子が「いくら?」と訊ねる。「お代は向こうのお宅が払うことになっています」「いいわよ、こっちで払うから。いくらなの?」「15銭です」「高い、10銭にしときなさいよ。またすぐに頼むんだから」といったやりとりが、たいそう面白かった。
 次の日だろうか、恵太郎が大学から帰宅すると鍵がかかっている。垣根を乗り越えて、服部宅へ、「おばさん、腹減っちゃった」「お茶漬けでよかったら、お食べ」、浜子は市場へ買い物に。そこに、八重子が友だちの真鍋悦子(高杉早苗)を伴い帰宅する。「あの人帝大でしょ」「独法よ」。八重子が着替えをするのを見て、悦子が「あなたのオッパイ、いい形ね。あたしのはペッチャンコ・・・」などと言う声を聞いて、恵太郎はドギマギ・・・、「はしたない話してるねえ、男性の居る前で」「いいじゃないの、女同士だもの。それより、近頃、恵太郎さん、そんなことに興味があるの」とやり込められた。その日の夜だろうか、服部宅で、両家の主人が二人で酒を酌み交わしている。宴もたけなわ、昌作が盛んに気炎をあげていると、この家の長女・京子(岡田嘉子)がやって来た。玄関で泣いている。嫁ぎ先を出てきたらしい。酔いも覚めて幾造は自宅に戻る。「困った。嫁に行った京子さんが帰ってきたんだ」「まあ、奥さんもさぞ心配でしょう」「死んでも帰らないと言ってるんだ」。
 その翌日だろうか、翌々日だろうか。いずれにしても日曜日、両家の主人は連れだって釣りに行った模様・・・。恵太郎と精二がキャッチボールの練習をしていると、隣家から言い争う声が聞こえる。京子が働きに出たいと言い、浜子がそれに反対しているのだ。京子が「カフェで働けば、私一人で生きて行けるわ」「まあ、何ていうことを!それでは世間に顔向けができない」。興奮した浜子は下駄をはき違えて隣家に赴く。途中で、精二と恵太郎に向かって「またガラスを毀しちゃ困るよ!」、いつもとは違う豹変振りに、あっけにとられる二人の姿がたまらなく可笑しかった。恵太郎は、練習を中断して、京子に会いに行く。「あたし、どうしていいか、わからないの」「くよくよしないことです」などと語り合うちに、八重子が友だちの病気見舞いから帰って来た。恵太郎と京子の姿を見ると、プイとして精二の所に行き「精二さん、遊ばない」「でも、こんな恰好で汚れているから」「洗えばいいじゃないの」・・・、結局、八重子と精二、恵太郎、京子の四人で映画を観に行くことになった。映画はベティー・ブープのアニメーション、観客は笑いこけているが八重子は面白くない。隣には精二、京太郎の隣には京子が座っているからだ。映画館を出ると、京子の奢りでシャモ鍋を食べに行く。新井宅では釣りの獲物を天ぷらにして、主人同士が酒を汲み交わしている。京子もシャモ屋で酒を注文、恵太郎に勧める。自分もしたたか飲んで酔いつぶれ、帰りのタクシーの中では、恵太郎にしなだれかかる。「お姉さん、迷惑よ」「いいじゃないの、奢ってあげたんだから少しくらい迷惑かけたって」そんな姉の姿に八重子は不潔感をおぼえたか、表情は曇るばかりであった。  
 また、次の日か、川縁の道を恵太郎と京子が散歩している。京子は「逢瀬」を楽しんでいる風情だが、恵太郎はどこか辟易としている様子。土手に腰を下ろして、京子が「あたし、もう一度、娘に戻りたい。でも、八重子のように純にはなれないわ。ねえ、恵ちゃん、あたしのこと愛してくれない」と言ったとたん、恵太郎は「もう、帰ろうよ」「イヤ、あたしは帰らない」「では、ボクは一人で帰るよ」と言い残してその場を去った。後ろから「逃げるの」という声が聞こえる。
 翌日は、いよいよ精二たちの野球大会(甲子園行きの予選)。八重子と恵太郎も応援にかけつける。試合は一進一退、延長戦にもつれ込んだが、精二の投打にわたる活躍で優勝することができた。甲子園行きが決まったのである。三人が大喜びで帰宅すると、松子が沈痛な面持ちで言う。「大変なことが起きたんだよ。八重ちゃん、あんたのお姉さんが家出したんだよ」。家では浜子が、京子の置き手紙を手にして泣いていた。「こんなことになるんじゃないかと思っていたんだよ」恵太郎もやってきて「大丈夫、帰ってきますよ」と慰めるが「だって、死にたいって書いてあるんです」と置き手紙を手渡す。「おばさん、とにかく探してきます」と、八重子と連れだって探しに出た。思いあたるのは、昨日の土手あたり、二人はくまなく探したが京子の姿はどこにもなかった。そして「何もかもがいっぺんに来た」。服部に朝鮮への栄転の知らせが入ったのである。京子のことに関わってはいられない。服部は業務の引き継ぎ、引っ越しの手配、新井は新聞社へ「尋ね人」の広告依頼、残った者は荷造り、トラックへの積み込みと忙しい。やがて、服部が迎えの車に乗って帰ってきた。まもなく出発の時が近づいたのである。名残を惜しむ浜子、「今後のことはよろしくお願いします。京子のことが気がかりで・・・」「今さら何を言っているんだ、さあ行くぞ」、浜子は八重子に促されて泣く泣く車に乗り込む。精二が「おばさん、さようなら」と言えば「甲子園、頑張ってね」という言葉。こんな時でも、相手のことを気遣う浜子の姿は、当時の日本女性の典型であろうか。
服部家の出発を見送った恵太郎と精二がキャッチボールをしていると、ひょっこり八重子が帰ってきた。「見送ってきたわ」「八重ちゃんの本箱と机、運んでおいたよ」。八重子は女学校を卒業するまで、新井家に下宿することになっていたのである。「もう、隣の八重ちゃんじゃないわ。アハハハハ」と屈託ない八重ちゃんの笑いで、この映画は「終」となった。
 気がかりなのは、京子の行方だが、そんなことには頓着しないことが、この映画の特長だと思われる。基調にあるのは、あくまで健全な生活意識であり、公序良俗と醇風美俗の空気が色濃く漂っている。その中で、京子の風情は異色、異端であるばかりか、不貞の匂いさえ感じさせる。嫁ぎ先との不和で実家に舞い戻るケースは少なくない。例えば、樋口一葉の「十三夜」、家に逃れてきた娘・せきに向かって、父は「子供と別れて実家で泣き暮らすなら、辛抱して夫のもとで泣き暮らすのも同じ」と諭す。娘もそれを聞き入れて嫁ぎ先に戻るが、それは明治時代の話、服部家の父・昌作、娘・京子には、そんな「絆」はほとんど感じられない。なるほど、たとえ戦前(の家庭)であっても、時代は確実に変わっていったのだということを痛感した次第である。
 八重子もまた、空き家になった自宅を眺めて、お姉さんは帰っていないかと一瞬、思いを馳せるが、その曇った表情が、すぐに屈託ない笑顔に変わる。そこらあたりが、この映画の魅力であり、ホームドラマの原点といわれる所以であろう。それにしても、今、京子はいったいどこで何をしているのだろうか。下世話好きな私にとっては、実に興味深い問題である。嫁ぎ先に戻ったか、カフェで働き口を見つけたか。いずれにせよ、置き手紙に書いてあるような結果にはならないだろうことは、確かなのだが・・・。
(2017.5.30)



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