META NAME="ROBOTS" CONTENT="NOINDEX,NOFOLLOW,NOARCHIVE" 脱「テレビ」宣言・大衆演劇への誘い 2024年02月
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2024-02-29

付録・邦画傑作選・「滝の白糸」(監督・溝口健二・1933年)

 ユーチューブで映画「滝の白糸」(監督・溝口健二・1933年)を観た。原作は泉鏡花の小説、昭和世代以前には広く知れわたっている作品である。
 時は明治23年(1890年)の初夏、高岡から石動に向かう乗合馬車が人力車に追い抜かれていく。乗客たちは「馬が人に追い抜かれるなんて情けない、もっと速く走れ」と、馬丁・村越欣弥(岡田時彦)を急かすが、彼は動じずに、悠然と馬車を操っている。乗客の女、実は水芸の花形・滝の白糸(入江たか子)が「酒手をはずむから」と挑発した。初めは取り合わなかった村越だったが、あまりにしつこく絡むので、それならと鞭一発。馬車は狂ったように走り出す。たちまち人力車を追い抜いたが今度は止まらない。馬車は揺れまくり、やっと止まった時には車軸が折れ、全く動かなくなってしまった。白糸は「文明の利器だというから乗ったのに、夕方までに石動に着くんでしょうね!」とからかう。村越はキッとして「姐さん、降りて下さい」と彼女を引きずり降ろし抱きかかえると、馬に乗り一目散、石動に向かって走り出した。他の乗客たちはその場に置き去りに・・・。
石動に着くと白糸は失神状態、霧を吹きかけて介抱すると村越は、再び高岡方面に戻って行った。気がついた白糸、その毅然とした振る舞いが忘れられない。傍の人に馬丁の名を尋ねると、「みんな欣さんと呼んでいますよ」。「そう、欣さん!」と面影を追う白糸の姿はひときわ艶やかであった。
 この一件で、村越は馬車会社をクビになり放浪の身に・・・、金沢にやって来た。月の晩、疲れ果て卯辰橋の上で寝ていると、すぐ側で興行中の白糸が夕涼みに訪れる。「こんな所で寝ているとカゼを引きますよ」と語りかければ、相手はあの時の馬丁・村越欣弥であったとは、何たる偶然・・・。白糸は村越の事情を知り、責任を痛感して詫びる。「私の名前は水島友、二十四よ。あなたの勉学のために貢がせてください」。かくて、その夜、二人は小屋の楽屋で結ばれた。翌朝、まじまじと白糸の絵看板に見入る村越を制して「見てはいやよ、こうして二人で居る時は、私は堅気の水島友さ!」という言葉には、旅芸人・滝の白糸の、人間としての「誠」「矜持」が込められている。
 東京に出た村越への仕送りは2年間続けられたが、「ままにならないのが浮世の常」、まして旅芸人の収入はたかが知れている。3年目になると思うに任せなくなってきた。加えて、白糸の「誠」は仲間内にも利用される。南京出刃打ち(村田宏寿)の女房に駆け落ちの金を騙し取られたり、一座の若者新蔵(見明凡太郎)と後輩・撫子(滝鈴子)の駆け落ちを助けたり・・・、で有り金は底をついてしまった。「欣さんはまもなく卒業、意地でも仕送りを続けなければ・・・」、白糸はやむなく高利貸し・岩淵剛蔵(菅井一郎)に身を売って300円を手にしたが、その帰り道、兼六園で待っていたのは岩淵と連んでいた出刃打ち一味、その金を強奪される。白糸は落ちていた出刃を手に岩淵宅にとって返せば「戻って来たな。こうなるとは初めから解っていたんだ」と襲いかかられた。もみ合う打ちに、岩淵は「強盗!」と叫んで床の間に倒れ込む。気がつけば白糸の出刃が岩淵の脇腹を突き刺していたのだ。彼女はその場にあった札束をわしづかみにして逃走する。行き先は東京、村越の下宿先。しかし、その姿はなく、再会を果たしたのは監房の中であった。 白糸は下宿を出るとすぐに捕縛され金沢に送られる。途中、汽車から飛び降り新蔵夫婦に匿われるが無駄な抵抗に終わった。出刃打にも岩淵殺しの嫌疑がかかり収監される。検事の取り調べに「あっしは白糸から金を奪ったが殺していない」。白糸は「出刃打から金を取られたことはありません」と否定する。監房の筵の上で、白糸は夢を見た。兼六園を村越と散策、わが子を抱いて池を見つめる。楽しい一時も束の間、まもなく看視に揺り起こされた。「新しい検事さんがお前と話をしたいそうだ」
 村越が検事に任官され金沢に赴任していたのだ。取調室で見つめ合う二人、「よく眠れましたか。食べ物は口に合いますか」と気遣う村越に、白糸は水島友にかえって「よく出世なさいました」と満面の笑みを浮かべた。もう思い残すことはない。これまで逃げたのも一目会いたいと思ったから・・・。「どうぞ取り調べを始めて下さい」「そんなことができるわけがない」とうつむく村越、二人の交情はそのまま断ち切れたか・・・。
 公判の法廷には村越検事が居る。滝の白糸こと水島友は、すべてありのままを証言し、自害した。お上の手を煩わせることなく、自らの身を処したのである。翌日、村越もまた、思い出深い卯辰橋でピストル自殺、この映画は終幕となった。 
 女優・高峰秀子は、戦前の女優で一番美しかったのは入江たか子であったと、回想したという。なるほど、滝の白糸は美しい。容貌ばかりでなく、鉄火肌、捨て身の「誠」が滲み出る美しさ、姐御の貫禄、遊芸の色気、温もりを伴った美しさなのである。それは、村越が下宿の老婆に「姉さんから仕送りをしてもらっている」と話していたことからも瞭然であろう。もとはと言えば、自分の悪ふざけが村越の運命を狂わせた、その償いのためだけに彼女は生き、死んで行ったのである。その「誠」を知ってか、知らずか村越も後を追う。「女性映画」の名手・成瀬巳喜男は「女のたくましさ」を描出することに長けている。一方、「女性映画」の巨匠・溝口健二が追求したのは「女の性」、(成瀬に向けて)「強いばかりが女じゃないよ」という空気が漂う、渾身の名作であった、と私は思う。お見事!  (2017.2.5)



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