META NAME="ROBOTS" CONTENT="NOINDEX,NOFOLLOW,NOARCHIVE" 脱「テレビ」宣言・大衆演劇への誘い 付録・邦画傑作選・「青春の夢いまいずこ」(監督・小津安二郎・1932年)
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2024-03-21

付録・邦画傑作選・「青春の夢いまいずこ」(監督・小津安二郎・1932年)

 ユーチューブで映画「青春の夢いまいづこ」(監督・小津安二郎・1932年)を観た。この作品は三年前の「学生ロマンス若き日」、二年前の「落第はしたけれど」に続く、第3弾とでもいえようか。戦前の青春ドラマ(学生ロマンス)の中でも屈指の名品である。
 舞台は前作と同じW大学、登場する俳優も、齋藤達雄、大山健二、笠智衆、田中絹代、飯田蝶子といった常連に、江川宇礼雄が加わった。
 冒頭場面は大学構内、例によって応援部の連中が学生を集めて練習をしている。そこには熊田(大山健二)、島崎(笠智衆)、堀野(江川宇礼雄)らの顔が見えるが、斎木(齋藤達雄)の姿はない。彼は貧しい母子家庭のため遊んでいる隙はないのだ。休憩時でも時間を惜しんで本を読んでいる。しかし、成績は振るわない。教授の話では「中学レベル」だそうだ。しかし、熊田、島崎、堀野たちは斎木を見捨てない。ともすれば孤立しがちの斎木を、だからこそ仲間として大切に思う。それが往時の「学生気質」(友情)なのである。というのも、彼らに共通するのは「勉強嫌い」で「遊び好き」、試験の際にはカンニングで協力し合う、固い絆で結ばれているからだ。
 学生たちに人気のあるのがべーカリー軒の娘・お繁(田中絹代)、大学構内に、おか持ちを下げて出前もしている。堀野たちも授業の合間にベーカリー軒に通い、お繁との親交を重ねていた。とりわけ、堀野はお繁に御執心、彼は今をときめく堀野商事社長(武田春郞)の御曹司とくれば、お繁が玉の輿に乗れるのは間近であった筈なのだが・・・。
 堀野が帰宅すると、山村男爵夫人(葛城文子)と令嬢(伊達里子)が応接室で待っていた。令嬢の風情はどう見ても気障なモガ、舶来のライターで紙巻きタバコをプカプカ吹かしている。父の話では、伯父(水島亮太郎)の紹介(縁談話)で「お前に会いに来た」由、「お父さん、そんな話、断って下さい」、父も同意して「息子は酒を飲むと乱暴になります」。令嬢は「まあ、素敵! 男はそれでなくっちゃ」などと動じない。「ドロボーもしますよ」とダメを押せば「私も哲夫さんの心を盗みたい」などとほざく。いよいよ、堀野本人が登場して、ライターを放り投げる、ハンドバックが灰皿替わり、などの狼藉を加えれば、令嬢の怒りは爆発、たちまち縁談破談となった。その様子を見て父と息子は大笑い、二人で祝杯を挙げる。「ワシもあんな娘は気に入らない」、父子の気持ちは通じていたのである。 
 翌日は、大学の試験日。例によって試験官の目を盗み、堀野たちがカンニングを試みているところに、小使い(坂本武)がやって来た。この小使い、学生の間でも人気がある。ある時など、ベーカリー軒で将棋を指していた熊田と堀野の勝負がつかず、将棋盤を持ったまま教室に向かう二人を見て、自分もその仲間入り、三人で教室に入り込む。講義が始まってもまだ指している。教授に見咎められ、あわてて抜き足差し足、へっぴり腰で教室を退出する姿がたいそう可笑しかった。
 試験官は小使いの話を聞いて、顔を曇らせた。「おい、堀野!お父さんが病気だ。すぐ帰宅しなさい。試験は追試験を受ければよい」。堀野は、「朝まで元気だったのに、信じられない」という思いで、あわてて帰宅。自宅には伯父を初め多くの社員が詰めかけている。父は脳溢血のため危篤状態、号泣する堀野に手を握られながら、まもなく息を引き取った。
 かくて、堀野はやむなく大学を中退、堀野商事の新社長に就任する。副社長の伯父がその旨を社員一同に説明するのだが話が長すぎる。もう1時間半も話し続けているのだ。早く終わりにしてくれという空気の中で、いよいよ新社長の挨拶となった。堀野は一同の前で、ぺこりと頭を下げると「親爺同様、よろしくお願いします」という一言だけで終わった。割れるような拍手、幸先よいスタートを切ったのである。
 数日後の朝、出勤前の堀野が準備をしていると、婆やが「近頃は、お坊ちゃまも社長らしく成ってきましたね」などと言う。その時、熊田、島崎、斎木が訪れた。「俺たちを君の会社で雇わないか」と言う。堀野にも異存はないが「入社試験があるぞ。合格できるかな。その前に卒業できるのか」と冷やかした。 
 まもなく入社試験日、熊田、島崎、斎木たちは「①インフレーションとは何ぞや、②9月18日事件とは何ぞや ③次の語句を簡単に説明せよ イ・リットン報告 ロ・生命線ハ・ホラ信 ニ・天国に結ぶ恋 ホ・大塩平八郎」という問題を前に悪戦苦闘している。それでも熊田と島崎は得意のカンニングを駆使して合格しそう(答案を事前に入手済み)、斎木だけがボンヤリしている。どうやら答案をなくしたらしい。監視に来た堀野はその様子を見て、問題作成者から答案を取り寄せ、丸めて斎木の足元に落とす。斎木は堀野を見やって頬笑む。堀野もまたうなずいて微笑み返した。その様子を、すでに無事書き終えた熊田が寿ぐ。まさに、今でも学生時代の友情でしっかりと結ばれている景色が鮮やかであった。ちなみに、「9.18事件」とは、柳条湖事件のことである。「リットン報告」とは、「国際連盟日支紛争調査委員会報告書」のことであり、リットンとはその委員長の名前である。「生命線」とは、満州国のことである。「天国に結ぶ恋」とは、坂田山で心中した大学生と女学生の純愛を詠った流行歌のことである。「大塩平八郎」とは江戸幕府に反乱を起こした大阪奉行与力の名前である。さて「ホラ信」とは何ぞや、私にもわからなかった。
 次の字幕には「一難去ってまた一難」。
 伯父はまたまた堀野に縁談話を持ってきた。これで6回目である。ある令嬢を引き合わせて「映画にでも・・・」と促す。堀野は渋々承知して自動車で映画館に向かう。令嬢は「シネマなんかより、二人切りになれる所に行かない」「大磯の坂田山へでも行きますか」「まあ嬉しい」と令嬢がしなだれかかる。堀野は辟易として窓の外に目をやると、お繁が歩いている。その隣には大きな荷車が。自動車を止めて事情を聞くと、近頃は学生さんも不景気で、ベーカリー軒は閉業、これからアパートに引っ越すのだと言う。デパートの売り子にでもなるつもり、「それならボクの会社に来たらどうだい。学生の二、三人も入ったから、君を歓迎すると思うよ」。堀野は欣然として立ち戻り、令嬢に向かって「引っ越しの手伝いをするので、ボクはここで失礼します。どうぞボクにお構いなく」と言うなり、自動車に荷車の荷物をどんどん運び込む。令嬢はいたたまれず、自動車を降りてプイとどこかに行ってしまった。お繁のアパートで荷物の整理をしていると、ドアを叩く音がする。花束を携えた斎木がやって来た。中に堀野が居るのを見て、バツが悪そうだったが、堀野は「よおーっ、会社をサボってきたのか。たまにはいいだろう。安い月給なんだから」と鷹揚に迎えた。お繁も「あたし、明日から会社のお仲間よ」と報告するが、斎木はどうしてもバツが悪い。堀野から「ボンヤリしてないで、君も手伝えよ」と誘われても「これから会社に戻るよ」と花束をお繁に渡して、出て行ってしまった。堀野は「熊田も、島崎もボクを社長扱いするんだ、さびしいなあ」と溜息を吐く。
 翌日、社長室では伯父がカンカンに怒っていた。「いったい何度ワシにに恥をかかせれば気が済むんだ。これで五度目だぞ」「六度目ですよ」「益々もってけしからん」堀野は初めて本心を打ち明けた。「実は、学生時代から好きな娘がいるんです」「それを何故もっと早く言わんか。それで、どんな娘だい?」「それはしばらくボクに預からせてください」。 
 その夜、堀野は熊田、島崎、斎木と銀座でビールを飲みながら会食する。「学生時代、お繁ちゃんは俺たちの共有財産だった。その人をオレが独占する以上、諸君の意見を聞きたい。」三人は神妙な面持ちで聞いていたが、斎木はうつむき加減、「斎木、どう思う?」、斎木はようやく顔をあげて「異論はないよ」、熊田も島崎も同意した。「じゃあ乾杯だ。さあ、飲もう」。堀野の心は躍る。斎木は堀野を見つめ頬笑み、天井に目をやる、勢いよく回っていた扇風機が次第に弱まり、力なく止まった。
 堀野が帰宅すると、斎木の母(飯田蝶子)が訪れていた。満面の笑みを浮かべて、堀野に感謝する。「この就職難の折に、お宝を頂けるなんて、あなた様のお陰だと、私どもは毎日、お宅様の方をあ拝んでおりますよ」。堀野も笑いながら「拝むんならボクではなく、一日も早く斎木君に嫁でもらって早くラクになることですね」と応じれば「それが、大変都合よく嫁が見つかったんです」、それはおめでたい、いったいどなたですと訊ねる前に、斎木の母は「御存知と思いますが、学校の前の洋食屋にいたお繁さんという娘なんです」。堀野の顔が変わった。「そうですか、それはいつの話ですか」「卒業する一ト月頃前でしょうか、初めて私に打ち明けたんです」。堀野の心は千々に乱れた。その足で、すぐお繁のアパートへ。「早速だけど、お繁ちゃんは斎木と結婚の約束をしたのかい」、お繁は頷く。「なんだって、斎木なんかと・・・、君は学生時代、ボクがどう思っていたかわからなかったのか」「あたし、もう二度とあなたは戻ってこないと思って、あきらめていたんです。その時に斎木さんからお話があって。いつも皆さんの後からとぼとぼ付いていく斎木さんがお気の毒だったんです。あたしの力で斎木さんの灰色の生活を明るくしようと思ったんです。あたしのような者でなければ、斎木さんのお嫁になる人はいないでしょう。」堀野は、帰ろうとする。「お怒りになったの」「その気持ちでいつまでも斎木を愛してやってくれ給え」という言葉を精一杯残し、振り返ることはなかった。お繁が見送ろうとして窓を開けると、花火が一発、美しい模様を描き出して消えた。
 斎木の下宿先では、熊田、島崎と三人で苦いビールを飲んでいる。消沈した母も居る。島崎は「口じゃあ何とでも言っても、彼奴も普通の社長さ。社長と女事務員、おあつらえどおりの型だ」と冷ややかな口調、熊田は「お繁ちゃんばかりが女じゃない。気を落とさないように。また、いい娘を見つければいい」と斎木をいたわる。母が「近頃じゃ、おまんまを頂くのも大変になりましたね」と取りなすが、ビールが先に進まない。それじゃあ、と熊田が腰を上げ、帰路に就く。そこまで一緒に行こうと、斎木も連れだって三人が夜道を歩き出した。(その直後から映画の画面は極端に暗転、「ケラレ」状態になる。人物の心象を浮き彫りにするためか、それとも撮影の不具合か。)向こうから自動車が近づいて来る。乗っていたのは堀野、今、斎木の家に向かう途中であった。「みんな一緒でちょうどいい、斎木に話があって来たんだ」。しばらく歩きながら、堀野は斎木に詰問する。「君はどういう気持ちで、お繁ちゃんとオレの結婚に賛成したんだ」「・・・」「君はオレが友だちの恋人を奪って喜ぶ男だと思っているのか」「・・・」「斎木、グズグズしないでハッキリ返事しろ!」島崎が「斎木だって君に厚意を示したいと思ってしたことだ。そう頭から責めちゃかわいそうじゃないか」と間に入ると「オレは君たちにも言い分があるんだ。オレの前に出ると犬みたいに尻尾を振って、それでも友だちなのか。いつ、そんなことをしてくれと頼んだ、いつ喜んだ」「・・・」「学校時代の友情はどこへ行ったんだ!」。ようやく、斎木が口を開いた。「僕達親子が幸せに暮らせるのは君のおかげだ。社長の君に逆らうことは僕達の生活に逆らうことなんだ」といった瞬間、堀野の鉄拳が飛んだ。よろめく斎木に向かって「そんなことで恋人まで譲る奴があるか、馬鹿!」。なおも殴りかかろうとのを熊田と島崎が必死で止める。「オレの言い分のどこが間違っているか。もしそう思うなら、オレを殴るなり蹴るなり、何とでもしろ」と叫ぶ。熊田と島崎は、掴んでいた斎木の腕を静かに放した。「オレは斎木の卑屈な気持ちを叩き直してやるんだ」というなり、無抵抗の斎木の頬を10回、20回・・・41回と平手打ちする。顔を押さえて斎木は崩れ落ちた。熊田が堀野に近づいて「すまなかった」、島崎も深々と頭を下げた。そうか、わかってくてたかと、堀野は斎木の前にひざまづき、「ゆるしてくれ」と嗚咽する。しっかりと斎木の手を握り、斎木も力強く握り返す。そして、青春の夢は今、蘇ったのである。堀野の胸裡には、優しかった父の臨終の時、手を握って泣き崩れた自分の姿が浮かんできたかもしれない
 大詰めは、丸の内にあるビルの屋上、昼休みの社員がくつろいでいる所に、堀野がやって来た。熊田と島津がキャッツボールの手を止めて、「もう、そろそろだぞ」。三人で、新婚旅行に向かう斎木とお繁を見送るつもり。熱海に向かう東海道線が通過する。「あそこだ!手を振っている」。三人もまた列車に向かって大きく手を振る。列車の中でも斎木とお繁がハンカチを振っている。屋上の三人が顔を見合わせて頬笑むうちに、この映画は「終」となった。
 この映画の眼目は、文字通り「青春の夢」、門地、身分、貧富を超えた「友情」であろう。その夢は往々にして崩される。お繁の本心は堀野の玉の輿の乗ることだが、それは夢、早々にあきらめて、風采の上がらない斎木をさせようとする。「友情」というよりは「同情」である。そのことを斎木は堀野に言い出せない。島崎は「厚意」(厚情)と思ったが、堀野は「卑屈」だと感じる。斎木の「僕達親子が幸せに暮らせるのは君のおかげだ。社長の君に逆らうことは僕達の生活に逆らうことなんだ」という言葉が許せない。もっと自信を持て、「逆らわない人生」で自分を守るなんて、卑屈としか言いようがない。その言い分に、熊田も島崎も逆らうことができなかったということは皮肉である。いずれにせよ、最も傷ついたのは堀野自身であったはずだが、彼には「社長」という重責がある。卑屈になぞなっていられない(メソメソしていられない、他人を恨んだりする暇がない)事情があるのだ。その精神は、敬愛する父親から学んだ賜物かもしれない。はたして、斎木の卑屈な気持ちは、堀野の鉄拳によってどこまで払拭されたか、そこが問題である。
 小津安二郎監督は、この映画の前作「大人の絵本 生まれてはみたけれど」で、ほぼ同じ「卑屈」という問題を取り上げている。子ども時代は「実力主義」だが、大人になると「金権主義」に変貌していく世の中を、子どもの目から捉えた佳品である。その子どもたちの成長した結果が、「青春の夢いまいずこ」だとすれば、斎木の卑屈な気持ちは払拭されなければならない。そこらあたりが小津監督の願いを込めた結論ではないだろうか。(2017.6.3)



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